福田廣よ、なぜにお前は

外にも武田観柳斎は、歴史家界隈では名の知れた男らしい。というのは、強烈なキャラクターやインパクトのある逸話の数々のせい(おかげ)であると思う。そのキャラクター性ゆえに、新選組がゲームに登場する場合も、低確率ではあるが参戦する。 参考までに下記の「新選組メディア露出ランキング(完全に偏見)」をご覧ください。

 

 1位…近藤、土方、沖田、斎藤

  (主人公に選ばれることすらあるレベル)

 2位…永倉、伊東、芹沢、山崎

  (まず間違いなく出演確定。加えて彼らの主役回すらあり得る)

 3位…原田、藤堂、井上

  (2位に一歩及ばない程度だが、全然目立つ)

 4位…島田、武田、谷、市村、新見

  (出演作自体は結構あるが、地味な役どころ)

 5位以降…その他

 

 さて、こういう武田だがやはり一躍有名にしたのは脚本&監督を三谷幸喜の手掛けた新選組!に他ならないだろう(演:八嶋智人)。しかし『新選組!』(以下「組!」)の武田はというと、所謂「武田観柳斎」のキャラクター像とは少し外れた、ある種邪道な存在なのである。

 今までの武田に無く「組!」の武田にあるもの。それを説明するためには、あのドラマの性格を語らねばなるまい。そもそもあのドラマが新選組をかなり好意的に描いている。近藤勇をキラキラ輝くスーパースター・香取慎吾が純粋な青年として演じ、土方歳三を二枚目俳優・山本耕史が近藤への愛溢れるまとめ役として演じた。

 我らが武田観柳斎も見事にその恩恵にあずかり、かなり「いいキャラ」として仕上がっている。なんと言っても彼の

 といった主流な人物像をベースとしつつ

  • 伊東との不仲
  • 隊内での孤立
  • 薩摩との接触
  • 斬殺

 に到るまでを、悪役・小者としてではなく「不器用な人」として描き切ったのである。体躯に恵まれぬゆえに軍学に没頭し、新選組をどうにか強い組織に引っ張っていこうと試行錯誤するのだが、繊細な心と自尊心が邪魔して全部空回り。特に第38回「ある隊士の切腹」における彼の切なさは並大抵のものではない。

 筆者が武田観柳斎という男を好きなのは、偏に人間味に溢れているからだ。立派な人間だと思ったことは露ほども無いし、蘇生させて語らうなど一番やりたくない。

 しかしどうにも、放っておけんのである。肩を怒らせて、赤い日の丸の金扇子を掲げ、高い大声で平隊士を怒鳴っている調練中の武田。周りから陰口をたたかれ後ろ指を差され、それを彼は知っている。そして何より恐れている。

 それが最も顕著に表れた台詞を、第41回「観柳斎、転落」から引用して締めとする。

「あの、一つだけお願いが。一隊士としてやっていくのは構いません。しかし、大部屋だけは勘弁していただきたい」

 (略)

「私、隊士に痛く評判が悪いもので、何をされるか分かったものではない」